考察や雑記。

初学者におすすめの音楽理論書3

彦坂恭人 著 「コード&メロディで理解する 実践!やさしく学べるポピュラー対位法」2015年

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複数の旋律を、それぞれ独立させながらも、それでいて調和するよう体系立った規則に沿って、組み合わせていく技法を対位法という。これだけでは何のことだかさっぱりであるから、例を出そう。

たとえばテレビの歌謡ショーを想像してほしい。デュエットやユニット曲で、ある一人の歌手が歌う旋律に付き添うように、また別の歌手が歌う… というようなシーンは誰もが一度は見たことがあると思うが、(ただ単に二人でユニゾンしてるだけだったり、二人で一つの旋律をかわりばんこで歌っている場合もあるけれども)このような楽曲の作曲に用いられるのが対位法である。

人間、「〇〇法」という文字を見ると身構えるもので、先入観で難しく思ってしまうし、実際のところ、対位法は確かに難しい部分がある。私は、実際に他の対位法の理論書を読んで実践してみたが、苦悶の末、畢竟よくわからないで放置した部分がいくつもある。己の才覚の限界と、そして独学の限界を知った。独学において「添削を自分でする」というのは、本質的には不可能だと思う。この2つの限界を知った私は、次に精神と体力の限界を知ることになる。寄る年波、老化である。

さて、難しそうな対位法の理論書の中でも、特にポピュラーなのが、今回紹介する「コード&メロディで理解する 実践!やさしく学べるポピュラー対位法」だ。やさしく学べるポピュラー対位法と謳うだけあって、本当にやさしい理論書である。対位法はコードとメロディが確立する前から存在していたが、本書ではコードとメロディの助けを借りて理解していく。

ここでちょっと、目次の一部を見てもらおう。

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目次にある「コードトーン」や「リフ」や「ベース」は、作曲経験者や演奏者にとってはよく耳にする言葉だと思う。他の対位法の理論書では、このようなポピュラーな言葉はあまり使われない。

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理論書はその理論における術語※を頻繁に使う傾向があって、まずその術語を知らなければ文章の理解すらできないことがある。これは初学者にはつらいが、本書ではわかりやすい馴染みのある言葉が使われているのが特徴だ。また、「止まったら動け」「リズムをマネする」「カウンターを意識して」「困ったら反対へ行こう」など、指示が直観的であり、イメージを掴みやすい。

著者の指示と譜例を参考にすぐさま実践できるのは、他の理論書にはなかなかない面白さだと私は思った。(もちろん、他の理論書でも実践は伴う) ありがちな「理論的な部分を眉間にしわを寄せて読んでいるうちに、やる気が失せてしまった」みたいなことは起こらない。対位法の「やさしい武者修行」といったところだろうか。本書を機に、より本格的な対位法の理論書に手を出してみるのもいい。

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(文字や譜例が大きいのはありがたい。)

対位法を学ぶ理由として、上位にのぼるであろうと私が勝手に思っている、「ストリングスであでやかに旋律を彩りたい」という欲求を、見事に満たしてくれる一冊に違いない。

著者の作品

著者本人による、P94の譜例の音源。対位法の活用を主眼に置いて、童謡「七つの子」が編曲されている。

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※ 術語というのは、その理論において定義がはっきりしている専門語のこと。そのため、用途として限定されている。意味を知らなくとも、文脈でなんとなくその術語の意味合いを掴めたりすることもあるが、やはり知っておかないと文の本意がうまく読み取れないこともある。