考察や雑記。

初学者におすすめの音楽理論書1

侘美秀俊 著「DTMによるオーケストレーション実践講座」2005年

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管弦楽の理論関連の書籍は「難しい」「わかりにくい」というよりも、具体的にいえば「その理論・技法等がどのように実践されているのか、なんだか想像がつかない」だと思われる。

だが、この本は初級者が漠然と持つ「オーケストレーション観」を払拭する。全編の細部に渡って著者の知恵がちりばめられており、(私のような)初級者にも確かな手ごたえと意欲を与えてくれるに違いない。

オーケストレーション

DTMによる」とあるが、読んでみてわかるように、【DTMのみで完結させる】ことを主眼に置いているのではなく、部分的な形でのDTMによる活用法を紹介している。また、出版年が2005年(Cubase SXシリーズあたりの頃)とあるように、まだDTMによる作曲が現在よりも発達していない時期の本なので、DTMの部分のみに期待するのは相応ではないと思われる。

orchestrate 管弦楽用に作曲(編曲)する。入念に準備する。(略)「orchestrate」には、メインの意味以外に「入念に準備する」という意味合いもあることを知った。じっさい、私たちが目にする「スコア」は、あらゆる段階や創作過程をへた状態であり、およそ、すべては「入念に準備する」ことからスタートしているのである。そこで、本書では、入念な準備~スコア作成~実際の演奏にいたる「オーケストレーション」にまつわることがわを、より実践的で現場に即したかたちでまとめようと試みたものである。

というように、特筆すべき部分は入念な準備の解説と、実践的・現実的側面を考慮した方法論であろう。オーケストレーションがただ漠然と、譜面やPCを前にして感性的な形で始まるのではなく、いわば建築的な形で地道に始まっていくことがよくわかる本である。

オーケストレーションは頭の中だけで組むものではなく、現実の楽器の特質や演奏者の実力に規定されることにより、そして規定されるがゆえに、作品としてより豊かになることをこの本は示唆する。DTMのみで完結する管弦楽的作曲と、現実の実際を対象にした管弦楽的作曲とでは、また異なる。

豊富な譜例

初級の初級として、豊富な譜例と一緒に手取り足取り教えてくれる。弦・金管木管・パーカッション…それぞれの特徴、和音の組み立て方、アーティキュレーション、演奏や表記における注意点等が理路整然とまとめられている。それでも、多少の楽典と和音進行の知識は必要であるから、同著者の「ちゃんとした音楽理論書を読む前に読んでおく本」や「マンガでわかる! 音楽理論」等を一応読んでおくといいかもしれない。

著者の作品

こういうレビューの場合、著者の作品がともに紹介されることは、なぜかあまり見かけないのだが、ここでは著者の作品も一緒に紹介する。

曲タイトルに「最後の砦」とあるように、この作品は吹奏楽による立体構造・メガストラクチャー的様相を呈している。私たちが巨大な建造物を見上げて茫然とするときと、同じような感覚に陥らせる作品である。必聴。